「道」稽古場より③/吉田航大

Photo: Erika UedaPhoto: Erika Ueda

連日の雨、雨、雨でジメジメした日々が続いている最中、鼓童村の稽古場では「道」国内ツアーに向けての稽古が行われております。

Photo: Erika Ueda

関西方面、浅草連続公演にて大盛況だった鼓童特別公演「道」。先月の「道」公演に出演していた一部メンバーから襷を受け取り、私を含め新たに6人の若手メンバーが「道」に出演します。(※栃木公演、山形公演につきましては、山口幹文に替わり住吉佑太が出演いたします)

Photo: Erika Ueda

基本的な姿勢、歩き方、舞台所作、太鼓の打ち方、声の出し方などを1から見直し、太鼓打ちとして、鼓童として舞台に立つ意味を改めて考えさせられています。

Photo: Erika UedaPhoto: Erika Ueda

大先輩の背中を見ながら必死に喰らいつき、時には背中を守られながら力の限り打ち込む、、、

Photo: Erika Ueda

熱く、張り詰めた空気、しかしどこか温もりも感じられる、そんな稽古場です。このメンバーで、また新たな道を作ります。

Photo: Erika Ueda

「道」国内ツアー7-8月

Photo: Takashi Okamoto

出演(7-8月)

山口幹文齊藤栄一見留知弘中込健太蓑輪真弥小松崎正吾前田順康吉田航大三枝晴太平田裕貴渡辺ちひろ小野田太陽詫間俊
※栃木公演、山形公演につきましては、山口幹文に替わり住吉佑太が出演いたします。

演目図鑑WEB版「HITOTSU」[後編]

6月9日よりツアーが始まった、鼓童特別公演2018「道」。
浅草公会堂での5日間の連続公演まで、おかげさまで大好評のうちに終了いたしました。
ツアーの後半は、一部キャストを入れ替えて7月半ばより再開。関東、東北、北海道方面にお伺いいたします。

機関誌『鼓童』でおなじみのコーナー「演目図鑑」のWEB版として、この「道」公演で22年ぶりに演奏している「HITOTSU」をとりあげ、2回にわたってご紹介しています。

[前編]を読む

狩野泰一(作曲)が語る「HITOTSU」の誕生と
船橋裕一郎(演出担当)の「HITOTSU」への思い

聞き手:坂本実紀/構成:本間康子(機関誌編集部)

【「HITOTSU」が再演されることについて】

(狩野泰一:以下狩野)私も、よもや「HITOTSU」を後輩たちがやってくれる日が来るなんて思っていなかったから、もう、めちゃめちゃビックリで本当に、本当にうれしいですね。

今まで鼓童でも歴代色んな方々が色んな要素を入れて曲を作ってきたと思うんだけど、「HITOTSU」の表現とか、楽器群はまた独特だと思うんだよね。

それに今回は舞なんかも入れたりして、さらに新しい意味付けがされておもしろくなった。観た人があれをどう感じるか、みたいなところも楽しみですね。

「道」公演での「HITOTSU」(浅草公会堂にて)撮影:岡本隆史

撮影:岡本隆史

【「HITOTSU」の誕生】

(狩野)この曲を書いたのは、世界中を旅してアジアで音や楽器、人の雰囲気に懐かしさみたいなものを感じたことがきっかけでした。

チベットや中国などアジアを旅している時に出会った音に、インパクトはあるんだけど、ルーツを感じたり、懐かしさを感じてね。
欧米のクラシック、あるいはジャズやボサノバなどとは全然違う伝わり方をしてくるんですよ。

チベットの奥地で民謡を唄い合ったことがあるんだけど、どこか似ていて、親近感を覚えるんだよね。

お辞儀する感じとか、「まあまあまあ」と言いながら、無理やりお酒を注いで来る感じとか、乾杯をカンペイって言ったりするところとか。

「それは何なんだろう」と考えたんだけど、一つは仏教の伝播と共に声明、お経とか、仏教の法器、宗教のための音を出す道具と一緒に仏教文化が、儒教や各地の文字、言葉、文化も入り混じって日本に伝わってきたからかなと。仏教が、インドで発祥してチベットや中国、韓国に伝わり、仏教音楽がアジアの各地を経由して日本に入ってきた。

だから各地の音楽、文化の要素も日本には入っているわけですよ。
声の出し方、歌の節回しやメロディ、太鼓のリズム、重低音、金属音の低い音、高い音などなど。

中東からアジア全般、顔とか言葉とか考え方も全然違うのに、音楽的なところは、同じような楽器で似たような事をやってるような気がします。
言葉は全く分からなくても、音楽は分かる! 共通点を感じる。

だから、アジアの音楽の根っこが「一つ」につながっているっていう感覚があった

そういう体験から感じた共通点、各地の楽器を繋いで、一つの音楽を作りたいなと。
それでできたのが「HITOTSU」なんです

【「ソーナ」との出会い】

撮影:岡本隆史

(狩野)ソーナに出会ったのは中国を旅してる時だった。

チャイニーズニューイヤーの時、田舎道を歩いていたら、遠くから音楽が聞こえてきた。音に誘われて行ってみると、小屋の中でたくさんの演奏者が蛇の皮の二胡からコントラバスみたいな大きなものまで様々な弦楽器を弾いてた。

その中でソーナとか、中国の明笛(みんてき)とか銅鑼とか、スゴイ音楽が鳴ってて、面白くてずっと窓の外から覗き込んでた。

すると、帽子をかぶったおじいさんに「来い来い、中に入れ」って呼ばれたの。
「ありがとうございます」って入って、漢字で筆談しながら音楽を見せてもらった。

「我音楽家」「楽器有宿」って書いたら持って来いって言われて、ホテルから三味線や笛を持ってきて、津軽じょんがら節を弾いたらバカうけ! 私は中国から日本に伝わった楽器が、400年たったらこうなりました、という里帰りのような気持ちで演奏してた。

その時にそのおじいさんに教えてもらったメロディーがあって、その場で必死で覚えて帰ってきたんだ。今でも忘れられないんだけど、でもなんの曲か分からなかった。

で、ずっと後になってある中国人の前でその曲を吹いたら、「中国の軍歌」だって。日中戦争で中国が日本と戦った時に「日本人を殺せ」っていう、そういう歌だったんだ。

私はそうとは知らずに、その場にいる50人くらいの人と50度以上のお酒を返杯しながらご馳走になって、楽器を通して友達になって、それでその曲を教えてもらったって思ってたから…。
ずっと後になって、そのおじいさんが教えてくれたあの夜を結ぶ記憶が、そういう軍歌だったということが分かったわけ。

「昔は殺し合った時代もあったんだよ」って、おじいさんはそう伝えかったのか…今となっては知る由も無いけど…そういう思い出の中で会った楽器なんだ。
アジアを感じる時、そういう風景、みんなの顔なんかが、浮かんでは消える思い出の一つになってる。

ソーナは、そんな旅の中で出会ったインパクトの強い楽器。

私には当時、鼓童の公演の時、周りが太鼓でドカドカやる中、マイクを使わず笛一本で音を通さなきゃいけないという大変さがあった。

だから、大音響の中でマイクなしで響いてくる楽器、ソーナに出会った時に「これだ!」って。

今度はこれを日本に伝えたい、これを使った曲を書きたいたいって、思ったんだよね。

 

【フリージャズ】

(狩野)「HITOTSU」は心臓の鼓動のように、脈打ち続けていく。

基本ビートがたった一つで、ずっと流れてる。

水が流れて川になって海になるように、「ドンスタッ、タタ、タカタカタカタカ」のリズムが始まったら、変化することも止まることもない。
それがどんどんどんどん大きくなっていく。じりじりじりじりね。

「HITOTSU」は基本ビートが一つで、ルート(根音)も一つ。
サビもなく、転調もなく、音階の変化もない。

そして、「ドンスタッ、タタ、タカタカタカタカ」という基本のリズムにはのらず、間と呼吸と気迫で
「ドン、バシャー!!!!ガガーン!ドンチ、ドンチー!」って、太鼓、シンバル類が叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アジア独特の「おろし(間が詰まっていくリズム)」が炸裂する。
「七五三(7拍・5拍・3拍)」も洒落で入ってくる。大音響でビックリさせて、お洒落じゃないけど(笑)。

決まったリズムを繰り返してグルーヴを作り、そのビートにのってフレーズを叩き、それにメロディーがのり、繰り返すのが、多くの音楽では当たり前になってるけど、全く違う作り方をしたんだ。

でも、基本ビートがないフリージャズだと、多くの方々にとって心地よくない音楽になってしまうかもしれない。

気持ちいい基本ビートが流れ続けて、なんとも言えないインパクトのあるメロディが流れてきたと思ったら、すごい音、フレージングが入ってきて、で、またそのほとぼりが冷めると次のメロディがきて、っていうのを繰り返しながら、全体がだんだんクレシェンドしていく。瞑想と覚醒。

基本のビート、揺るがない鼓動があるからこそ、何やっても許される、アジアのフリージャズなんですよ。

答えは一つじゃない

(船橋)狩野さんには鼓童村での通し稽古を見ていただきましたが、公演では幕や照明が入ることで印象がかなり変わります。

実は、先日、この演目を劇場版の学校公演でやったんですよ。

一度舞台でやって、見てみたいというのもあったし、この曲に関しては子供に寄り添いすぎず、「大人の世界を、あの世界観をみせよう」と、逆に切り替えて持っていきました。

狙い通りというか…中学生シーンとしてましたね(笑)。

学校公演での「HITOTSU」(撮影:鼓童)

(狩野)分かりやすいものをやってあげるのもパフォーマーとして大事なんだけど、逆に訳の分からないものを大の大人が真剣にやって「なんじゃこりゃ」って人の心を動かすのもおもしろいですよね。

なんでか分からないけどイメージだけ残って、音だけグルグル頭ん中で回っちゃって、後からあれはこういう意味だったんだって人が思ったり…そういうのもいいよね。

(船橋)今、ネットで調べればすぐ何でも分かるようだけど、実際、本当は分からないことだらけなはずなので…。すべてに答えがなくてもいいんじゃないかなと思って。

(狩野)この曲は、例えば人間の一生かもしれないし、国ができて滅ぶ、あるいは宇宙が生まれる過程とか、何を想像してもいい。混沌として、なんだか分からないけど「なに?!」って印象が残ればいい。

「HITOTSU」だけでなく、抽象的なアートっていうのはみんなそういう性格を持っている。千人が聴いたらそれぞれが全然違うストーリーを受けとめて、宇宙を感じたり生命を感じたり…全部正解って言うか。

だから、答えは一つじゃないわけです。

【「道」の中での「HITOTSU」】

(船橋)天気とか、雨雲が重くなると憂鬱な気分になってくるじゃないですか。でも重たい気分の中から、光に向かっていくようなイメージを感じました。

「HITOTSU」は聖なるもの、すなわち大太鼓の前の静と動…空間をゆがませた上で、ほこりが立つイメージ。
そして無音の場面を作りたくて、大太鼓の前の静寂で使おうかな…とイメージが浮かんできて。

この曲は、公演の中でも「おっ」という美しいシーンになるんじゃないかと思います。

(狩野)公演、すごい期待してますよ。
こっそりどっかに、観に行きたくなっちゃったな(笑)。

 

 

 

 

(完)

 

狩野泰一(Yasukazu KANO)プロフィール

篠笛奏者 / 篠笛講師 / 音楽プロデューサー

1963年東京生まれ。一橋大学在学中にジャズドラマーとしてライブ活動を開始。1987年「鼓童」に参加し1997年に独立。佐渡島に暮らしながら「篠笛」の新たな音世界を広げて2005年にメジャーデビューし、多くのCD、教則DVD、楽譜集等を出版。これまで世界30カ国で2000回を越える公演をし、笛・祭り文化の再興のため篠笛講習会を全国、世界で展開。NHKテレビ「日本の話芸」テーマ始め、映画、演劇等の音楽プロデュースも手がける。天皇皇后両陛下の御前演奏、ミラノ万博2015出演も務め、東京ドームで空手世界チャンピオン宇佐美里香の演武とコラボ他、香西かおり、サリナ・ジョーンズ、南こうせつ、河村隆一、伊藤君子など多くのア-ティストと共演している。中西圭三、宮本貴奈とのユニット『WA-OTO』も好評。最新作は、2017年リリースのCD『SOUND OF THE WIND』。

鼓童を離れた後も、鼓童の研修生、メンバーへの篠笛の指導を行っている。

「HITOTSU」のほか、鼓童在籍中に「SOBAMA」(1992年CD『回帰』に収録)、「A-SON-JA-O」(1996年CD『いぶき』に収録)などを作曲。

オフィシャルサイト http://yasukazu.com/

 

CD『回帰』は鼓童オンラインストアでご購入いただけます。

 

鼓童特別公演2018「道」全国ツアー

 

公演スケジュール

2018. 鼓童『道』/米山水木

Photo: Taro Nishita

鼓童村のあじさい

皆様、梅雨の季節に入りジメジメとした日が続いておりますが、いかがお過ごしですか?

Photo: Takashi Okamoto

私は、6月から鼓童『道』のツアーで全国に参加しておりました。初演は京都府綾部市から始まり、浅草公演も終え、無事に佐渡へと帰って参りました。

Photo: Naomi Iseki

浅草期間、地元の皆様には大変お世話になりました。
恒例となりました浅草公会堂での鼓童公演は6年目。私は、2016『若い夏』と2018『道』の2回、出演しました。皆さん本当に心が熱い方達で、顔を合わせると「おかえり。」と言ってくれて。新たな、故郷という感じです。

そして、なんと浅草期間中私の誕生日だったこともあり、浅草の方からプレゼントも頂いたり。本当にありがとうございました。浅草の皆さん!大好きです!! これからも、よろしくお願いします。

Photo: Takashi Okamoto

私は、今回で『道』への参加は3回目になります。

1回目は準メンバーの時で、『道』が鼓童初舞台でした。
その時も今も変わらず思うのは、「自分が憧れていた舞台に立てる」「鼓童のDNAを持った大先輩方と音で会話ができる」ということです。

Photo: Takashi Okamoto

Photo: Takashi Okamoto

この2つの気持ちの中には、「嬉しさ・興奮・安心・涙・恐怖・怒り」が、私の身体の中でいつも渦を巻くように現れます。常に、もう一人の私と闘っている感じです。

Photo: Takashi Okamoto

過去・現在・未来、様々な「私」がいますが、次々と現れる壁を離さずむしろ一緒にまとめて、私の太鼓のグルーヴの世界に巻き込む。そんなふうになると、また見える世界も変わって来るのかなっ!って思います。

Photo: Takashi Okamoto

『道』の舞台は私にとって、「自分超え」の空間です。いつもいつも応援してくださる方々皆様に感謝を込めて、これからも精進して参ります。

Photo: Takashi Okamoto7月は、パリでの「若手連中(Kodo Next Generation)」〜「FUJI ROCK FESTIVAL」そして8月は「アース・セブレーション」と、全力疾走で頑張ります!

「道」国内ツアー7-8月

Photo: Takashi Okamoto

出演(7-8月)

山口幹文齊藤栄一見留知弘中込健太蓑輪真弥小松崎正吾前田順康吉田航大三枝晴太平田裕貴渡辺ちひろ小野田太陽詫間俊
※栃木公演、山形公演につきましては、山口幹文に替わり住吉佑太が出演いたします。

Photo: Takashi Okamoto

2018年7月17日(火)〜22日(日)Kodo Next Generation(フランス・パリ)

2018年7月29日(日)鼓童出演「FUJI ROCK FESTIVAL’18」(新潟県湯沢町)

2018年8月17日(金)〜19日(日)アース・セレブレーション2018(新潟県佐渡市)

研修生・琉球舞踊「群星」集中稽古/阿部好江

Photo: Mariko Sumiyoshi

研修生2年目の6月は、琉球舞踊「群星むりぶし」の集中稽古期間です。

歴代研修生に20年以上ご指導してくださるのは、琉球舞踊家・太圭流華の会師範の金城光枝先生です。

Photo: Mariko Sumiyoshi

稽古の中で一番出てくる言葉は「腹(丹田たんでん)」。

腹で座り、腹で足を上げ、腹で押す、、、。そこから生まれる動きや型には、力強く、勇ましく、揺るがないものが見えます。

Photo: Mariko Sumiyoshi

しかし、研修生にとって簡単なことではありません。必死で食らいつき、見えないものをわかろうと努力しなければ、得られるものは少ないでしょう。

Photo: Mariko Sumiyoshi

厳しい修行を積んで来られた先生の言葉に嘘偽りはなく、研修生の心に日々問いかけています。この稽古期間を通して、本当にわかってもらいたいことは何か。。。

、、、彼らは今、何を学んでいるのでしょう。

Photo: Mariko Sumiyoshi

稽古も終盤、もう直ぐ発表会を迎えます。

「群星」という名のように彼ら一人一人はまだ小さな星のような存在で、お互いが競い合うライバルでもありますが、

だからこそ、一丸となった時の強さを見せて欲しい。

頑張れ、研修生。

Photo: Mariko Sumiyoshi

 

鼓童文化財団研修所について:

鼓童文化財団研修所

【間もなく募集開始!】2018年7月6日(金)〜2018年11月9日(金) ※必着

【募集要項】https://www.kodo.or.jp/apr/research_students

 

6月20日「研修生合同稽古」/内田依利

Photo: Mariko Sumiyoshi

研修生の中間発表と合同稽古が鼓童村で行われました。

Photo: Mariko Sumiyoshi舞台の最前線に立っている舞台メンバーから、直接指導してもらえる貴重な時間です。

「気持ちがあるのはわかったが、それだけでは何もできない」

やはりそこで立ち返るのは、基本稽古。綺麗で、芯のある一発の音をしっかり出すことです。

普段より見てもらえる目が多く、細やかな指導に一瞬たりとも気が抜けません。

研修生が目指す舞台に立つメンバーから出てくる言葉は、具体的で、シンプルに重みがあります。

Photo: Mariko Sumiyoshi

丁寧な稽古のくり返しが、あの音を、あの舞台を作っています。

「お客様に届く音」目指す先がまた明確になった、充実した合同稽古の時間でした。

 

鼓童文化財団研修所について:

鼓童文化財団研修所

【間もなく募集開始!】2018年7月6日(金)〜2018年11月9日(金) ※必着

【募集要項】https://www.kodo.or.jp/apr/research_students

 

演目図鑑WEB版「HITOTSU」[前編]

6月9日よりツアーが始まった、鼓童特別公演2018『道』。
「大太鼓」「モノクローム」「三宅」などの鼓童の古典とも言える曲から、出演者による新作まで、幅広いラインナップとなっていますが、その中でも90年代に作られた曲が異彩を放っています。

機関誌『鼓童』でおなじみのコーナー「演目図鑑」のWEB版として、22年ぶりに演奏される「HITOTSU」をとりあげてご紹介いたします。

[演目データ]

  • タイトル:HITOTSU(ひとつ)
  • 作曲:狩野泰一(1992年)
  • 使用楽器:ソーナ、ラグドゥーン(チベットホルン)、ベル、チャイナシンバル、うちわ太鼓、桶太鼓、クンプール、声、平胴大太鼓 など
  • 舞台での演奏歴
    初演:1993年・Gathering公演(東京・オーチャードホール)
    再演:1996年・EC’96「草苅神社能舞台公演」(佐渡・草苅神社)
  • CD『回帰』に収録

船橋裕一郎(演出担当)と狩野泰一(作曲者)が語る
「HITOTSU」の魅力、そして難しさ

聞き手:坂本実紀/構成:本間康子(機関誌編集部)

【「HITOTSU」を「道」公演の演目に選んだ理由は?】

(船橋裕一郎:以下船橋)もともと、ちょっと混とんとした、空間がゆがむような場面なんかがすごく好きで。

僕は、比較的何事もなく大きな挫折がなく、環境が悪かったということもなく育ってきたので、その反面、読む本や観る映画とかは若干癖がつよいものを好むところがあって。
旅先でも、神社や寺に行くのが好きなんですけど、その周りにある猥雑な場所にも引かれるんです。
実際に、かつて遊郭のあった場所など、吉原とかも寺社仏閣の近くにあるじゃないですか。何か「猥雑なところと聖なるところのゆがみ」みたいなものが好きで、そういう世界観を作ってみたいなって。

太鼓は、どれも全部違って、同じ音や響きにはならないんです。それを一つに合わせて気持ちよくする、違うけど認め合って一つになっていくというのは太鼓の魅力でもある。
混沌とした世界だけど、何かみんなが幸せを信じてじゃないけど、一つに向かっていくような世界観を、CD『回帰』で「HITOTSU」を聴いていて感じるんです。

HITOTSU」は鼓童の中でも「これ、鼓童の曲かな」と思ったりするくらい違和感のある曲。いい意味で鼓童っぽくなくて面白い。すごくいい曲だし壮大な曲だなぁと、惹きつけられました。

1993年7月・Gathering公演(東京・オーチャードホール)撮影:岡部好  前列両端で吹いているのがラグドゥーン(チベットホルン)、右端はクンプール(インドネシアのガムラン音楽で使われる楽器)

1996年8月・EC’96(草苅神社能舞台公演)撮影:吉田励

【ダブルリード楽器について】

(船橋)この曲を選んだもう一つの理由に、リード楽器を使いたいというのがありました。

リード楽器は鼓童ではあまり使わないので、篳篥(ひちりき)とか笙(しょう)などを取り入れると面白いかなと考えていたんですが、一昨年、韓国でチャンゴ奏者のキム・ドクスさんと共演した時に、「鼓童はなんでチャルメラ使わないんだ」って言われていたんですよね。

キム・ドクス(金徳洙)氏:1978年に韓国の4種の打楽器によるアンサンブルグループ「サムルノリ」を結成。鼓童とは1989年のECでの初共演以来、1990年(東京)、2000年(佐渡・東京)、2016年(韓国)と共演を重ねている。

確かにチャルメラって音の印象が強くて面白い楽器でもあるし、鼓童でもやってみたいなと思ったら、(HITOTSUで)使っていると。

【日本では耳慣れないダブルリード楽器「ソーナ」とは?】

(狩野泰一:以下狩野)日本人はダブルリードの音があまり好きじゃなかったのか、伝わっても定着しなかった。雅楽の篳篥(ひちりき)と、あとは屋台の夜鳴きそばのチャルメラぐらいで。

この強烈な音を出す楽器は、韓国ではピリ、中国ではソーナと呼ばれていて、北部と南部でも大きさや音程が違う。形が長いと低い音になり、短いと高い音に、ラッパの部分が大きくなると音が大きくなる。

アジアはもちろん、インドや中東、ヨーロッパでも、名前や形に差はあれど、世界中にあって、音はそんなに変わらないんです。それこそシルクロードの西から東まで伝わって、日本にはポルトガルやスペインの商人が長崎などに持ち込んだ楽器が、チャルメラと呼ばれるようになったけれど、実際にラーメンの屋台で吹かれていたのは、中国のソーナだったらしい。

参考:西岡信雄著『人と神と音 楽器をフィールドワークする』

野外でドカドカ太鼓を叩いてる中でも負けない大きな音が出せるから、メインになれる大事なメロディ楽器なんです。日本ではそういう音に出会わないから、中国でソーナの音を聞いた時はびっくりしました。「なんじゃこりゃ!」って。

自分がいた頃、鼓童はまったく音響を使わなかったので、何千人のホールでたくさんの太鼓が鳴っている中、篠笛一本でマイク無しに聞かせなければならなかった。だから、「この楽器で曲を作りたい!」って思ったんです。

【そもそもダブルリードって?】

(船橋)簡単に言ってしまえば、葦の丸いのを、つぶして金属で巻いているだけなんです。ストローをこれくらいの大きさにちょっと切って、先をちょんちょんって潰してビーって吹くイメージですね。
でもこれが命なんです。これが鳴るかどうか。

(狩野)葦のリードを慎重に削って削って、火でちょっと炙ったりして、うまく振動するように作るのにものすごく時間がかかるんです。リードが上手にできた時だけいい音が出るんだけど、乾燥しすぎると開いちゃって音が出なくなっちゃうし、逆に湿りすぎるとペタッてくっついて音が出なくなっちゃうんですよ。

シングルリード(サックスとかクラリネットなど)と違って、ソーナみたいなダブルリード(オーボエ、ファゴット、篳篥など)は特にそこがめちゃくちゃ大変。いいリードができたと思ったら、ピリッと破けたりしてすぐに使えなくなったり。

とても繊細だから、ソーナを使う時はすぐ使える調子いいリードを何枚も用意しておかなければならない。でも、質のいいリードはなかなか手に入らないんだ。だから、この楽曲を作る時に世界中を歩いて中国やロンドンの専門店なんかで僕が買い集めた本当に質のいいリードを、今回全部鼓童に持って行ったんだよ。中国で探し求めたいろんな種類のソーナ、ネパールから持ち帰ったラグドゥーン(チベットホルン)と一緒にね。

【演者を悩ませるダブルリード楽器の難しさとは?】

1993年Gathering公演(東京・オーチャードホール)緋毛氈の右端でソーナを吹く狩野泰一さん[撮影:坂口正光]

(狩野)実際やってみて、難しいと思う。特に音程のコントロールが難しい楽器なんですよ。定まりにくい音程を、無理やり作り上げなければいけないようなところがあって。

レコーディングの時は、自分の音と周りの音を、ヘッドフォンでバランスを取って聞きながら吹けるけど、舞台だと周りの太鼓の音が大きくなるとベースのクンプールが聞こえなくなっちゃうんです。自分の音も大き過ぎて、音程がよく分からなくなってくる。本当に大変だから、もうダブルリード楽器だけはやりたくない(笑)。

私は鼓童時代、笛、津軽三味線、尺八、和太鼓をやっていたので結構舞台に出っぱなしで、オーチャードホール(1993年「ギャザリング」公演)で「HITOTSU」をやった時も、直前の演目にも出演していたんです。で、いざソーナを吹こうと思ったら、舞台袖に置いといたソーナのリードが乾燥してしまって。

もちろんそれを懸念していたし、リハーサルではちゃんと吹けたんだけど、本番は照明もあるし、温度、湿度も変わっていて…で、一生懸命舐めて、一生懸命吹いたけど思う音が出せないという、悔しい思いをしました。

だから、次の日は教訓を生かして、リードが乾燥しないようにビニール袋を被せておいたの。そしたら今度は湿りすぎちゃって。張り付いちゃって音がでない。僕にとってはダブルリードは悪夢の思い出(笑)。

だから今回「HITOTSU」をみんながやってくれるのはすごく嬉しい。最大限の協力をするから、僕が失敗したことを踏み台にして、完成して欲しいんだ! 長い歴史を経て世界各地に伝播した、太鼓、シンバル、ダブルリード、ラッパが膨張し、炸裂してHITOTSUになるアイデアはいいと信じているから。

【元鼓童メンバーの曲を今のメンバーで演奏してみて】

(船橋)泰一さんの曲を使いたいと言ったら、すごく喜んでくれました。

(狩野)「HITOTSU」を鼓童の後輩達がやってくれるなんて、思いもよらなかったからね。

狩野さんが持っているのが「ソーナ」。そして船橋が持っているCD『回帰』に「HITOTSU」が収録されている。

(船橋)鼓童を離れても、思いを持ってくださる人や関わってくれる方がいるのはすごく貴重なことなので。鼓童があり続けるのは、やっぱり色々な人が関わっていただいて、お互いによろこびや楽しみを分かち合えると。
曲を通して恩返しじゃないですけど、またこうして直接に教えをいただける関係ができるのは嬉しいです。

(後編に続く)

 

CD『回帰』は鼓童オンラインストアでご購入いただけます。

 

鼓童特別公演2018「道」全国ツアー

 

公演スケジュール

「道」6月公演の千穐楽は浅草!/井関直美

「道」ツアーが始まり、これまでに京都・愛知・静岡で計4公演、無事に終了いたしました。ご来場いただいた皆様、ありがとうございました。

そして次の土地は、、、初夏の恒例となってまいりました、浅草です。

Photo: Naomi Iseki

Photo: Naomi Iseki

Photo: Naomi Iseki仲見世商店街の鼓童フラッグ

街の皆さんが回を重ねるごとに応援して下さり、雷門通りとオレンジ通り、そして雷門をくぐると仲見世商店街にフラッグが飾られています。

Photo: Naomi Iseki

オレンジ通りの鼓童フラッグ

Photo: Naomi Iseki

雷門通りの鼓童フラッグ

浅草公演のみ作成している細長いポスターも、いろんなお店で見かけます。
伝法院通りの放送にも、ぜひ耳を傾けてください。聞いたことのある声が聴こえてきますよ。

Photo: Naomi Iseki

こんなにも浅草の皆さんに応援していただき、鼓童公演を行うことができるだなんて、数年前は夢のようでした。

浅草公演期間の約1週間。
ぜひ、浅草の「鼓童」を感じにお越しくださいませ。

鼓童インフォメーション

浅草公会堂にて、鼓童新作「巡」文京公演(12/19-23)の先行予約を受付いたします。また、1F展示ホールでは「鼓童 浅草公演 特別展示」開催!ご来場をお待ちしております。

▼展示開催時間
6月20日(水)~22日(金)12:00~17:00
6月23日(土)10:00~18:00
6月24日(日)12:00~16:30

 

鼓童特別公演2018「道」2018年6月20日(水)〜24日(日)東京都台東区

いよいよ「道」国内ツアー/井関直美

Photo: Erika Ueda
Photo: Erika Ueda
ただ今、京都府中丹文化会館でゲネプロ中。じっくりと稽古を重ね、熟成させてきた今回の「道」。各地の会場でお待ちしております。

Photo: Naomi Iseki

鼓童特別公演2018「道」全国ツアー

 

公演スケジュール

This is NIPPON。/吉田航大

「初音ミク×鼓童」
幕が開いた時、そこには見たこともない光景が広がっていました。

Photo: Maiko Miyagawa
緑色に光るペンライトが、美しく、力強い何かを感じ、危うく自分の打ち出しを忘れてしまいそうな程、息を呑む光景。本編が始まる前から会場のボルテージは最高潮に達し、歓声の波が押し寄せてきました。

常に大汗を掻きながら、息を荒くしながら、袖水を少し口に含んでまた舞台に出る。普段の鼓童公演よりもかなり濃密なセットリストで、一息つく暇もないくらいでした。

太鼓を鳴らせば、手拍子が起こり。
掛け声をかければ、歓声が上がる。

Photo: Maiko Miyagawa
どんなにキツくても、それに応えようとしてくれるオーディエンスに触発されて、限界ギリギリまで力の限り打ち込んでいました。

Photo: Maiko Miyagawa

3800人キャパの大きいホールでしたが、客席との距離がもの凄く近く感じて、お互いの「熱気」「汗」「感情」その全てがストレートに届いていた気がします。

Photo: Maiko Miyagawa

全ての曲が終わり演奏者がハケた後、「手締め」が会場内に響き渡る。

This is NIPPON。

This is NIPPON プレミアムシアター「初音ミク×鼓童 スペシャルライブ2018」

 

クルーズ船、ようこそ佐渡へ!/米谷友宏


初夏を迎えた佐渡には今、海外からのお客様を乗せたクルーズ船が数多く寄港します。今年は小木港に7隻のクルーズ船が寄港する予定で、そのお客様の多くがたたこう館に訪れます。

たたこう館では太鼓体験講師のサミーちゃん(宮﨑正美)とよねちゃん(米谷友宏)による約1時間の太鼓体験を行っています。


海外のお客様は陽気な方が多く、体験中はいつも賑やか。たとえ英語が出来なくても、太鼓に向かい、音で会話をするうちに自然と笑顔が生まれ、音楽に国境は関係ない!と身をもって感じています。

そして5月26日にはたたこう館で鼓童の貸切公演も行い、1日2回公演で約200名のお客様がご覧下さいました。


普段耳にしない大音量の太鼓の音にびっくりする方もいましたが、最後にはスタンディングオベーションを頂きました! 約30分の演奏の他、鼓童メンバーへの質問コーナーもあり、太鼓や鼓童の歴史、研修所についてなど様々な質問が飛び交いました。

今年も佐渡では8月17〜19日にかけて、アース・セレブレーションを行い、多くの海外からのお客様をお迎えします。太鼓を通じて佐渡を楽しんで頂けるよう、これからも笑顔で太鼓体験講師として頑張ります!

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